災害予測ウォッチ

自治体防災における重要インフラ被害予測:橋梁・トンネル等に着目した最新技術と実務への活用

Tags: 重要インフラ, 被害予測, 自治体防災, 橋梁, トンネル

はじめに

自然災害が発生した際、道路や橋梁、トンネルといった重要インフラがどのような被害を受けるかは、その後の応急対策や早期復旧、そして住民生活の再建に大きく影響します。特に自治体の皆様にとって、管内の重要インフラが被災する可能性やその程度を事前に把握し、対策を講じておくことは極めて重要です。

本記事では、重要インフラ、中でも橋梁やトンネルなどに焦点を当てた災害被害予測技術の最新動向をご紹介し、それが自治体防災の実務にどのように役立つのか、また導入にあたってどのような点を考慮すべきかについて解説いたします。

重要インフラ被害予測技術とは

重要インフラの被害予測技術とは、地震や洪水、土砂災害といった自然災害が発生した場合に、特定の構造物(橋梁、トンネル、ダム、河川堤防、上下水道管、電力設備、通信設備など)がどの程度の被害を受けるかを事前に予測する技術です。ここでは特に橋梁やトンネルに絞って考えます。

この技術では、主に以下のようなデータを活用し、シミュレーションや統計的手法、近年ではAIや機械学習を用いた分析が行われます。

これらのデータを組み合わせることで、「想定される震度〇の地震が発生した場合、A橋梁は落橋の可能性が〇%、軽微な損傷に留まる可能性が〇%」といった形で、個別の構造物ごとの被害確率や被害レベルを予測します。また、地域全体のインフラネットワークへの影響(通行不能区間、孤立地域など)を予測することも可能です。

自治体防災における重要インフラ被害予測の応用とメリット

この技術は、自治体防災の実務において多岐にわたる活用が期待できます。

1. 応急対策の優先順位付け

発災直後には、被害状況の全体像を迅速に把握し、限られたリソースの中で応急対策の優先順位を決める必要があります。事前に重要インフラの被害予測データがあれば、被害が大きいと予測される箇所や、救援・復旧活動の生命線となる重要なルート上の構造物に対して、優先的に点検や応急復旧チームを派遣するといった判断が可能になります。これにより、より効率的かつ迅速な初動対応が実現できます。

2. 早期復旧計画の立案支援

被害予測データは、発災前の段階で、インフラごとの想定被害に基づいた復旧シナリオを複数検討する上で役立ちます。どのインフラが損傷する可能性が高く、その復旧にはどの程度の時間や資材が必要かといった情報を基に、より現実的な復旧計画を立てることができます。また、発災後には、実際の被害状況と予測を照らし合わせることで、復旧戦略を迅速に調整することが可能になります。

3. 避難計画・物資輸送ルートの検討

橋梁の落橋やトンネルの崩落は、避難経路や緊急車両・物資輸送ルートを寸断する可能性があります。事前に被害予測を行うことで、想定される災害シナリオにおいてどのルートが寸断されるリスクが高いかを把握し、代替ルートの検討や、避難計画・輸送計画への反映を行うことができます。

4. 平時のインフラ管理・長寿命化計画への活用

被害予測は、災害時だけでなく、平時のインフラ管理にも貢献します。老朽化の進んだ構造物や、自然条件から見てリスクの高い場所に位置する構造物について、予測結果を参考に点検頻度を上げたり、優先的に補強・改修工事を検討したりする判断材料として活用できます。これは、限られた予算の中でインフラのレジリエンス(回復力、強靭さ)を高める上で有効なアプローチとなります。

導入における考慮事項と課題

重要インフラ被害予測技術の導入を検討する際には、いくつかの考慮すべき点があります。

1. データの質と整備状況

高精度な予測を行うためには、インフラ台帳データや点検記録など、基礎となるデータの質と網羅性が不可欠です。自治体によっては、これらのデータが十分に整備されていなかったり、デジタル化されていなかったりする場合があります。まずは既存データの棚卸しと、必要に応じたデータ整備・標準化が必要になる可能性があります。

2. コスト

予測システムの構築や既存システムとの連携、データの整備、運用保守には一定のコストがかかります。クラウドベースのサービスを利用するなど、初期投資を抑える方法もありますが、導入形態による費用対効果を慎重に検討する必要があります。

3. 技術的な理解と運用体制

予測結果を適切に解釈し、防災計画や実務に活用するためには、ある程度の技術的な理解が必要となる場合があります。また、システムを継続的に運用し、最新のデータを反映させて予測精度を維持するための体制構築も重要です。必ずしも高度な専門知識を持った職員が必要というわけではありませんが、外部の専門機関との連携なども含めて検討することが考えられます。

4. 予測の不確実性

どのような予測技術にも、不確実性は存在します。「予測は予測であり、確定した未来ではない」という点を理解し、予測結果を絶対的なものとして扱うのではなく、リスク評価や意思決定の一助として活用するという姿勢が重要です。予測の精度や限界についても、導入前に十分に確認しておくべきです。

事例紹介(架空)

例えば、海岸線に多数の橋梁を持つB市では、地震による液状化や津波による橋脚への影響リスクが高いことがかねてより課題でした。そこでB市は、外部の専門機関と連携し、市内の主要橋梁を対象とした詳細な被害予測システムを導入しました。このシステムは、橋梁ごとの構造データ、地盤データ、想定される地震・津波ハザード情報を基に、各橋梁の損傷レベルや通行止め期間を予測します。

発災時には、この予測データと実際の被害報告を照合しながら、被害が大きそうだが早期復旧が不可欠なルート上の橋梁から優先的に点検チームを派遣しました。また、住民に対しては、被害予測に基づいた通行不能見込み区間を迅速に情報提供し、避難や移動の参考としました。これにより、限られた職員とリソースを最も効果的な場所に投入することができ、応急対応の迅速化と住民の安全確保に貢献しています。さらに、平時には予測結果を基に、耐震補強の優先順位を見直すなどの対策にも活用しています。

まとめ

重要インフラ、特に橋梁やトンネルなどの被害予測技術は、自治体が災害リスクを具体的に評価し、効果的な防災計画を策定・実行するための強力なツールとなり得ます。応急対策の迅速化、早期復旧計画の精度向上、そして平時のインフラ管理に至るまで、その活用範囲は多岐にわたります。

導入にはデータの整備やコスト、運用体制といった課題も伴いますが、これらの課題を克服し、最新技術を賢く活用することで、地域のレジリエンスを一層高めることが期待できます。貴自治体における重要インフラの特性や課題を踏まえ、被害予測技術の導入がどのようなメリットをもたらすか、検討を進めてみてはいかがでしょうか。